60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

自宅警備員と戦う



自宅警備員と戦う」(2016年5月13日付日経新聞夕刊)
 最近、囲碁や将棋のトップ棋士がAI(人工知能)に敗れたというニュースをよく目にする。コンピュータはついに人類を超えたのか…といった議論も盛んだ。
 そんな大それた話ではないが、私も時々PCやゲーム機相手に将棋を指してみる。そして、ボコボコにやられる。昭和30年代生なので、昔から駒の動かし方くらいは知っていた。子どもたちが将棋教室に通っていた頃は、付添ついでに耳学問したこともある。だが、50過ぎてからではなかなか棋力は上がらない。
 でも、脳の加齢対策になりそうだし、「将棋のメディア史」を研究してみても面白いかなぁといったスケベ心もある。新聞・雑誌に始まり、ラジオからテレビへ、そして地上波からBSやCSへ、さらに近年ではネットへと対局の様子を伝えるメディアは多様化している。またそれら棋戦の主催者としても、新たなメディア企業が台頭してきている。
 そんなわけで、何だか仕事に気乗りせず、なかなかPCを立ち上げられない時には、まずネットで一局指そうと電源を入れることも多い(一局で済めばいいのだが…)。
 ネットを介して人間相手に指せるようマッチングしてくる、いわば将棋版出会い(手合い)系サイトというか、電子的な将棋道場・碁会所の類いもあるのだが、やはりソフト相手に対戦する方が気楽でよい。
 よく訪れる将棋サイトでは、入門者向けとして二人のキャラクターがまず出迎えてくれる。いや、人と犬(たぶんMIX犬)なので、二体というべきか。それらにはすぐに勝てるようになったが、初級者向けの六体はなかなか手ごわい。初級者向けなので、それぞれ「*ゆとり」がついたバージョンが相手なのだが、それでもアヒルや5歳くらいの子ども(前世は蜂だと思っている)にもコテンパンにやられる。
 それら6体は、各自異なる棋風の持ち主にプログラミングされている。居飛車党もいれば、右四間飛車を多用するもの、必ずいきなり中飛車に振るもの、かと思えばオールラウンダーもいる。こちらはもう年なので、いろんな戦型・戦術を指しこなすわけにはいかず、ワンパターンの攻めを繰り返すのだが、それとの相性の良し悪しがあるようだ。中でも苦手なのが、「日々、プロの棋譜を沢山並べて研究する永世自宅警備員」というキャラクター。自宅警備員とは、いわゆる「ひきこもり」の言い換えなのだが、ともかく粘り強い。
 でも最近やや分がよくなってきたので、そろそろ中級者編(「*ゆとり」のついていない6体が相手)に進もうかと思い始めた。が、考えてみればこちらが先手番ばかりを選択してきたので、今度は後手で指してみる。と、これがどうにも勝てない。一手違うだけでこうも盤面の景色が変わるものかと愕然とする。じつに奥深いゲームだとつくづく思う。 
 マンガやライトノベルなど、将棋を題材としたコンテンツをよく見かけるし、映画化やアニメ化なども予定されているとか。七冠達成に沸く囲碁界同様、ぜひとも将棋界も盛り上がってほしいものだ。
 ドワンゴ主催による、プロ棋士対将棋ソフトの棋戦第二局ももうすぐ行われる。人間の巻き返しなるか。ネットでの動画中継に注目したい。いやもちろん、今年の王座戦日経新聞社主催)の挑戦者が誰になるかも気になるのだが。


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月は授業実施日だが、日曜同様、子どもの相手と持ち帰り仕事。


服部泰宏『採用学』新潮選書、2016
五十嵐太郎『日本建築入門』ちくま新書、2016