60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

ハンズオン・ラーニング



「ハンズオン・ラーニング」(2016年6月24日付日本経済新聞夕刊)

 先週、ゼミ生とともに大阪の堂島川にかかる玉江橋北詰にある放送局を訪れた話を書いた。
 玉江橋は、織田作之助の小説「放浪」の主人公順平が、なけなしの全財産を川に落としてしまった場所である。泉州に生まれ、10歳で親戚に引き取られ、大阪・東京・別府で働き、徳島・仙台で刑期をつとめ、それこそ放浪の挙げ句の果てに…である。
 順平が養子となり、料理人の修行をつんだのは、生國魂(いくくにたま)神社近くの料亭だった。この通称「生玉(いくたま)さん」の最寄り駅は、地下鉄の谷町九丁目である。ここ数年、私とゼミの3年生は、この時期になると谷町六丁目の駅に降り立ち、コスメティック関連の会社におじゃましている(ちなみに相撲の「タニマチ」の語源とされる、力士から治療費を取らなかった相撲ファンの外科医は、谷町4丁目で開業していたのだとか)。
 その目的は、他大学の先生とそのゼミ生たちとともに、合同演習の打ち合せをすることにある。広告・マーケッティング関連のゼミがいくつか集まり、6月に企業側から「お題」をちょうだいする。そして10月にはどこかの大学を会場とし、宣伝販促・商品開発などの部署の方々をお招きし、各ゼミがそれぞれの案をプレゼンテーションする会を設けている。合同演習などというと、なんだか軍事っぽいが、要するにゼミ対抗戦(企業側にプレゼンの優劣を評価していただく)なので、楽しく交流しながらも、火花もちょっとは散るイベントなのだ。
 会議室に通されて、さっそくオリエンテーションをうける。どのブランドの、どのアイテムについて、どんなターゲットに対し、いつまでに、いくらくらいの予算を用いて、どういった目標を達成するために、どのような施策を行えばよいのか。そうした課題を毎年ちょうだいし、そこから学生たちの悪戦苦闘は始まる。
 最近大学業界では、ハンズオン・ラーニングという言葉が流行のようだ。アクティブラーニング、反転学習、プロジェクト型学習、ポートフォリオ評価、ルーブリック、IR(インスティテューショナル・リサーチ)等々ときて、今度はハンズオン。直訳すれば「手をおく(手にふれる)」で、要は体験学習のことだ。広告やマーケティングに関して、理論や事例を本で学ぶだけではなく、実際に自分で企画・立案してみることでより深くわかろう、という話だ。もちろん、変に社会人の真似事をするより、もっと大学でやるべきことがあるはずだ、との批判はだろう。
 だが、より深く理解できるかどうかは別にしても、実践的な課題を与えられ、自ら案を考えていく作業を経ると、学生たちは安易に「宣伝とか商品企画とか、いいかなあって思ってます」「お前の発想おもしろいとよく言われるんですよ」「なんか、クリエイティブな仕事、したいじゃないですかぁ」と言わなくなっていく。それはとてもよいことだ。
 ゼミによっていろいろだろうが、私は基本的にまず学生に自由に考え、動いてもらう。そして学生たちの苦悶の様子をただ見ている。助言を求められれば(助言できることがあれば)適宜…といった感じである。
 でもとりあえず、あぁ今年ももうそういう季節が来たんだなと思い、LINEスタンプを一つダウンロードしてみた。みうらじゅん描くところのカエルが「う〜んマンダム…」と唸っている絵柄のやつだ。


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写真はオリエンテーションの後の懇親会に連れて行っていただいた店の階段。
神戸風月堂のゴーフル(とがったやつ)が組み合わさったような複雑な形状…


今日は朝から髪の毛を切りにいき、午後から会議。
この週末は、家の模様替え的なことでてんやわんや。