「早天祈祷会」(2016年6月10日付日経新聞夕刊)
学部長という職に就いていると、いろいろ人前で話をする機会がある。先週金曜の朝には、キャンパス内のチャペルで登壇した。
いわゆるミッション系の大学に就職して、当初はいろいろ違和感があった。教授会など多くの会議は、祈祷から始まる。教員組合と理事会との団体交渉の際にも、まず祈祷。私が組合の書記長をしていた時には、組合執行部に信者の方はおらず、仕方なく皆で黙祷していた。理事会側にはお祈りのできる人材が豊富で、すでにそこで負けている感じだった。しかし20年もいると、キリスト教が少しは体になじんでくる。
パイプオルガンの演奏、賛美歌、聖書の朗読に引き続き、話をする。与えられたテーマは「社会学部のために」。内容は学部の新たな取り組みの紹介など。参列の皆さんに、それら取り組みの順調な進行を祈っていただきたかったのである。
具体的には、この春入学の1年生から始まる、新たなカリキュラムについて。これまでも3、4年生のゼミ所属と卒業論文は必修だったのだが、その専門ゼミへの所属を2年の後期からに早める。また、入学後の半期だけだった基礎ゼミを、通年の科目とした。さらに2年生の前期には、基礎ゼミと専門ゼミをつなぐような演習科目も設定した。
小規模な大学では、「4年間の間断なき少人数ゼミへの所属」は、すでに当たり前のことなのだろうが、総合大学ではなかなか難しい。でも、あえてやってみるのだ。神様に祈りのひとつも捧げたくなる。
それ以外にも、専攻分野の再編、社会学や社会調査の入門科目の検討、語学教育の改革、学部独自での海外の大学との交流プログラム設置などなど。前の学部執行部が詰めておいてくれたとはいえ、実際に新たな仕組みを走らせてみると、いろんな微調整が必要となってくる。想定外の事柄も生じてくる。ともに学部執行部を担ってくれている先生方の、心身の健康を願ってやまない。
そんなこんなで、私のようないたって世俗的な人間でも、けっこう聖書を拾い読みするようになった。ただし、読み物として楽しめる旧約聖書の方が中心なのだが。
最近のお気に入りはダニエル書。夢の中に、鷲の翼が生えた獅子のようなものやら、3本の肋骨をくわえ寝転がる熊のようなものやら、背に翼を四つ生やし、頭も四つある豹のようなものやらが出てくる。そのうえ10本の角を持つ獣まで登場し、さらに1本の角が生えてきて、その角には目があり、口もあって「尊大なこと」を語っている。そして王座がすえられ、そこには「日の老いたる者」が着座する……。なんだかよくわからないけど、やたらとカッコいいぞ、日の老いたる者。
これまでダニエルと聞いて思い浮かぶのは、山形弁を操るカールや、中日ドラゴンズに在籍したカブレラ、ハリー・ポッター役のラドクリフ、芦屋の洋菓子店、プロテニス選手の太郎などだったが、旧約聖書に由来する名前だったんだなぁ、ダニエル。あと、2016年カンヌ国際映画祭パルムドールに輝いたケン・ローチ監督(もうすぐ傘寿!)の「私、ダニエル・ブレイク」が楽しみ。
バイブルに限らず、コーラン、仏典、論語なども目を通しておいて損はないかもと、思い始める金曜早朝。見逃した「とと姉ちゃん」も気になるのだが。
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今日は社会学部のチャペルにて講話。
あとは用事やら面談やら。ジムにもいけたら。