60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

山口瞳、アリエル、アリエル

2年前に亡くなった義姉(といっても年下)が、
体調を崩して以降、観ていたというディズニービデオが数巻届く。
子どもたちが観たがるものから、観せ始めているけど
巻き戻してなかったりすると、いろいろ感じいるものがある。


The Aristocatsって、オシャレ猫というより、貴族猫みたいなことなんだろうか。
猫の格差社会(階層と文化資本)を描いているといえなくもないし。
しかし“マリー”だけが、ディズニー・キャラクターとして
一人歩きしてるのはどうなんだろう。
(ディズニー・プリンセスしかり、バンビに出てくるミスバニーしかり)
幼稚園児の間に(さらには先生のエプロンにまで)浸透しているけど
あまり原作を観て好きになった、ってことじゃないような気がする。
これが「キャラクター」と「キャラ」の違いか?、とも思うけど
たぶん間違っている。
息子に「大きくなったら何になりたい」とたずねると、「アリエル」と答える。
たぶんこれも間違っていると思うけど、まぁいいや。


明日から大学・幼稚園とも再開。さらに今週は、取材対応が多くなりそう
(地元紙、全国誌、首都圏誌、地元コミュニティFM局…)。
基本的にヤンキーがらみのよう。ヤンキーねぇ。


たまたま数年前に出た『文藝別冊 総特集山口瞳』を眺めていて、はたと
『ヤンキー進化論』って、結局『江分利満氏の優雅な生活』がやりたかったのでは
と思い始める。山口瞳
サントリーに入って社宅に入ってやっと落ち着いたってところで書き始めた」
「小説に限らず歌に限らず…妻子を不幸にしてまでやることじゃない」
その作品『血族』に
「俺は、もう、喰いっぱぐれがない。俺は、ついに、安気な生活を得たのだ。
…これからは、大事に大事にやっていこう」


もともと『…進化論』は、拙著『族の系譜学』に目をとめて下さった
版元からの企画提案をうけて始まった話なのだが、
それを書いてる間のモチベーションは、我ながら不明だった。
だが、いきなり二児を授かり、家のローンを背負い、
組合の書記長をやってた2004年度以来
ひそかに私は『…優雅な生活』モードに入ってたような気がする。
小学校高学年から中学にかけて、
江分利満氏モノを暗記しそうな勢いで読んでいた経験が
識閾下にわだかまっており、それがこちらの環境変化にともない
化学反応し始めてたのかも知れない。その噴出が、『…進化論』?
ともかく、要するに私は43歳で「やっと落ち着いた」のだ。


『…優雅な生活』の中だったかは記憶不鮮明だが
宮本武蔵は偉いのではなく強いのだ、偉いのは江分利のような匹夫にもかかわらず
豚児をなんとか養っているような人間なのだ、みたいな件や
マカロニグラタンか何かを気に入り、延々ついばみ続ける幼児(庄助)をみて
「もう俺は死ねない」という思いが江分利にわきあがるシーンなどなど。
自分で体験してみないと、やっぱ本当にはわからなかったんだろうなぁと思う。
(『闇金ウシジマくん』のサラリーマンくんや『莫逆家族』の祖我の心境とかも)


私は大学を出て以降定職に就き、経済的には自立してきていたのだが
「落ち着いて」働いている感はなかった(休職や転職をしたわけだし)。
しかし、子どもと借金背負うと、骨の髄から「仕事と家族を大事にしていこう」と思う。
そして、この感じ、割と(元)ヤンキーとされる人と共通項ありそう…
という直感があったのだと思う(『I Love mama』じゃないけど)。
むろん、(元)ヤンキーとされる人たち皆が皆
地道に働き、子どもに衣食住を与えているというわけではないだろう。
しかし、この「43歳にしての天啓」を共有してそうな人のカテゴリーとしては
子持ちであることの蓋然性(その確率が高かろうという点)に鑑み、(元)ヤンキーは
「学生」「高学歴ワーキングプア」「パラサイトシングル」「負け犬」「おひとりさま」「喪男・喪女」「晩嬢」「ニート」「草食系」「DINKS(死語?)」etc.
との比較で言えば、はるかに先に挙げられるべき存在であろう。
((元)ヤンキーならば、もっと早くに親になってるんだろうけど。43で孫とかいるんだろうけど)
もちろん、真っ先に挙げられるべきは
扶養子持ち「サラリーマン(ウーマン)」との共有(共約)可能性なのだろうが
昔ほどサラリーマン(ウーマン)が「安気」かというと、そうともいえない。
なかなかつらいご時世だが、がんばれ、というかがんばろう匹夫・匹婦、である。


と考えてくると、私が『…進化論』を通じて吐き出そうとしていたのは
バウマン言うところの「労働の倫理」だったように思えてくる。
ウロ覚えでどうしようもないけど、「労働の倫理→消費の美学(→その破綻)」が
バウマンが某書で描こうとした骨子のように理解している。
そんな私に、「ヤンキー型消費」について…と言われてもねぇ。
でも仕事は大事に大事にやっていこう。