60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

アメリカ関連抜書2

大谷能生『歌というフィクション』月曜社、2023

120-1p「(服部良一など)彼らが参考にした「洋楽」の主成分は、同時代に成立した「スウィング・ミュージック」である。そしてその「スウィング・ミュージック」とは、移民の国アメリカが歴史上はじめて手に入れた「オール・アメリカン・ミュージック」であった。
 アメリ中産階級WASP的イメージを前面に立てながら、アイリッシュ、イタリアン、スパニッシュ、南米、東欧、ジューイッシュ、アフロ・アメリカンらマイノリティに由来する音楽的要素/様相を巧みに織り交ぜ、どの「民族」からも程よく距離を取った、まさしく「合衆国的」としか言いようのないかたちに整えられたダンス・ミュージックが「スウィング・ミュージック」である。
 この音楽の最大の魅力は、誰もが「どこかで聴いたことがある」と思わされるような、健全な、標準化されたエキゾチシズムである。戦前に輸入され、中断され、そして戦後、戦前よりさらに直接的なかたちで日本でもプレイされることになった「ジャズ」=「本場のアメリカ音楽」とは、そもそも最初からルーツレスな、ファンタジーとしてのダンス・ミュージックだったのだえる。
 一九三〇年代から活躍する大歌手ナット・キング・コール(1919-1965)は、英語の他にスペイン語、ドイツ語、そしてなんとヘブライ語と日本語でも歌を吹き込んでいる。戦前から戦後の「流行歌」の中に入り込んだ、このような「本場のジャズ」の伝統を最大限に反映した日本のポップスこそ、五〇~六〇年代に掛けて大量に生み出された「リズム歌謡」に他ならない」