60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

(講義関連)アメリカ(36)レペゼン三沢(?)のフィメールラッパー

(ポピュラー・カルチャー論講義補遺)「アメリカ」を考える(36)レペゼン三沢(?)のフィメールラッパー

 

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 前回の森光子からいきなり時代は飛びます。
 いま米軍基地とフィメールラッパーと言うと、Awich一択になりそうなものですが(二木信「Awichの痛みとカルマ:反植民地主義としてのヒップホップ」2023年5月号『ユリイカ』)、ここではMARIAについてです。

 

124p「当時は基地のなかに住んでたの。なかにも学校はあるんだけど、あたしは外の小学校に行っててさ。お父さんは基地内のアメリカの学校に行かせたかったんだけど、お母さんはあたしが基地内の学校に進学するといずれアメリカに行っちゃうと思ったみたいで、日本の学校に行かせたのね。あたし、こう見えてほとんど英語力がないの(笑)。日常会話程度。だから小学校では”あいつ外人なのに英語しゃべれない”とか言われて、友達はできなかった。(略)基地のなかにティーン・センターっていう、10代しか入れない多目的施設があるんですよ。そこには基地で生活してるいろんな子たちがいるんだけど、そこで小学校低学年のときに初めてヒップホップを聴いたの。基地のなかには白人よりも黒人が多くて。だから接する音楽も、自ずとヒップホップが多くなるんですよね。あとヒップホップを聴いてる子たちがラジカセとか背負っちゃってて、マジでイケてたの(笑)! ちょうどスヌープ(・ドッグ)が“The Next Episode”をリリースした頃。友だちはいなかったけど、そこでヒップホップと出会って“マジカッコいい!”ってなっちゃった。周りの子はみんなSPEEDとかDA PUMPとかだったけど、あたしはひとりでエミネムとかTLCとかを聴いてた。中学校になって、ようやくヒップホップ聴く子とかが出てきてあたしは“遅いよ!”って思ってた(笑)」

125p「日本語ラップはちょくちょくテレビでは観てたけど、“生ぬるいな~”とか思って最初は全然こなかった。でも中3のときに初めてブッダBuddha Brand)の“人間発電所”を聴いてやられちゃたの」(巻紗葉『街のものがたり:新世代ラッパーたちの証言』Pヴァイン、2013年)

 

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 しかし、ラッパーにはマイノリティとしての葛藤とか壮絶な過去とかなきゃいけない、というわけでもないんでしょう。以下はR-指定の語りより。

 

20-1p「(略)話をジブさんに戻すと、“永遠の記憶”の〈中坊の俺は 家に帰らず 学校の帰りまず 街に繰り出す〉って、ホンマに“Grateful Days”の前日譚感あるんですよね。そして〈色々あった 10代の夏 ライターのガス 吸って 死んだ奴〉とか、田舎の中学生からしたら物騒すぎて……(汗)。俺もその10代の夏の真っ只中に聴いてるんやけど、ライターのガスを吸って死んだやつは周りにおれへんな、平和なんやなって(笑)。

――歌詞の中じゃ、10代なのに無免で車に乗るわ、覚醒剤で刑務所に入る奴はいるわ、大騒ぎですよ。

R もう、どんな恐ろしいところなんですか、東京は? と思いながら、堺の田舎で震えてましたよ(笑)」(R-指定『Rの異常な愛情:或る男の日本語ラップについての妄想』白夜書房、2019年)

 

 Wikipediaによれば、R氏は金岡高校に通っていたとか。こちらが高校時代までを過ごした実家のごく近くで、あの田んぼとため池の間の道を通学していたのかと思うと、「堺の田舎で震えてましたよ」には非常に共感。大阪ミナミのディープさ煮詰めた韻踏合組合ではなく、梅田サイファーというのは納得です(なかもずから地下鉄乗れば、なんばで降りるか梅田で降りるかは4駅の差)。ちなみにアメリカ古着好きで知られる森田哲矢氏は、金岡北中卒という話を聞いたことがあります。

 無理やり米軍基地話に話を戻すと、こじつけっぽいですが、作家藤本義一はかつてこんな風に語っていました。

 

終戦直後の中学一、二年時代、彼らに対して三つのタイプがありましたな。
①ギブ・ミー・チューインガム型
②欲しいけど恥ずかしい型
③キャンプにもぐり込んで盗みをする型
 ぼくは盗み型でしたね。
 堺市の金岡とか浜寺キャンプに仲間たちとももぐり込むんですが、盗品は闇市で売っ払う。あるときなんか、てっきり、ガムの箱だと思って盗んでみたらコンドームがギッシリ」(『週刊読売』1975.8.30)

 

 金岡キャンプは、現在の金岡公園・近畿中央胸部疾患センター近畿管区警察学校・長尾中学校一帯なのだとか。ちなみに大阪公立大学杉本町キャンパスは、大阪市内なのになぜかキャンプサカイでした。

 

 

正村俊之編『情報とメディア』ミネルヴァ書房、2024