60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

(講義関連)アメリカ(54)最後に「パチンコ」について考える。

www.youtube.com

 

(ポピュラー・カルチャー論講義補遺)「アメリカ」を考える(54)最後に「パチンコ」について考える。

 

 講義との関係で、目についたアメリカ関連のもろもろについて書いてきたこのシリーズも、ここでいったん区切りとします(Season2、多分あります。誰も待ってないでしょうが)。

 で、今回取り上げるのは、この2月に出た、玄武岩ほか編『グローバルな物語の時代と歴史表象:『PACHINKO パチンコ』が紡ぐ植民地主義の記憶』(青弓社)です。この本は、2022年にApple TV+で配信されたドラマ(とその原作にあたるミン・ジン・リーの小説”PACHINKO”)についてのシンポジウムがベースになっています。ドラマが取り扱うのは、1910年代から80年代まで。韓国済州島から日本に渡った女性とその孫の男性(アメリカから日本に戻ってくる)との絡みなど、家族の歴史を追った作品です。

 基本的に日韓の物語なので、「アメリカ」に関連づけるのはやや無理があるようですが、在米コリアンの作者が英語で書いた小説が、アメリカでヒットし、それをアップルがドラマ化して世界に配信したという点で、まぁ「アメリカ」というテーマに関連ありそうです。が、話自体は日韓、とりわけいわゆる「在日(ZAINICHI)」をめぐる物語。

 私はApple TV+には入っていないので、中古の円盤(アマゾンで購入)で観ました。本の中では、「なぜドラマ「パチンコ」が日本ではあたらなかったのか」に関する議論も多々あるのですが、日本でのApple TV+利用者の少なさが、まずその大きな要因でしょう。しかし、かつて日本では全く当たらなかった「MAD MEN」の時同様、私はドはまりしました。なにせオープニング曲がかっこいい。アメリカのバンドThe Grass Rootsがカバーした”Let’s Live for Today”(The song that would become "Let's Live for Today" was originally written by English musician David "Shel" Shapiro and Mogol in 1966, with Italian lyrics and the Italian title of "Piangi con me" (translation: "Cry with Me"))。アメリカでの発表は、1967年。

 私にとっては、萩原健一率いるテンプターズがカバーした「今日を生きよう」(1968年)です。子どもなりに聴いたような気もするのですが、調べてみるとデビューシングルのB面だったようで、リアルタイムに聴いたというよりは、1990年頃、CMにこの曲が使われた際に上書きされた記憶なのかもです。でも、カバーであっても、今聴いてもカッコいい。まぁいろいろありましたが、惜しい方を亡くしました。歌謡曲化していった後のテンプターズは、あまりピンとこないですが、一連のなかにし礼のコテコテ歌詞はさすがです(「今日を生きよう」の訳詞もなかにし)。

ザ・テンプターズThe Tempters/今日を生きようLet's Live For Today (1968年) - YouTube

www.youtube.com

エースコック 1.5倍 大盛りいか焼そばCM 1989年 15秒 深津絵里 - YouTube

 

 昔からマイナー好きだったので、アイドル然としたタイガースよりは、ショーケン推しだったように思います(ゴールデンカップスモップスも、なんか他のGSとは違うなと感じつつも、当時はよくわからなかった。ダイナマイツやズーニーブーは子どもなんで視野に入らず)。でも、タイガースも、沢田研二岸部一徳(おさみ)、加橋かつみなども当時王子様然として売ってはいましたが、今考えるとけっこう危ない匂いがするラインアップ(加橋かつみ横山やすしが、同(じ)中(学))。岸部一徳の愛称サリーも、「のっぽのサリー(Long Tall Sally)」から来てるのかもですが、いや、そんなかわいらしいものではなく、当時からどこか凄みはあったと思います(当時、サリーと言えば魔法使いだったガキにはとって、サリーのあだ名は非常に違和感)。さらに話逸れますが、映画「リトル・リチャード:アイ・アム・エブリシング」は、私にはツボでした。

 話を急ぎドラマ「パチンコ」と『グローバルな物語の時代と歴史表象』に戻します。本の中には、「『パチンコ』とOTTナラティブのリアリティ:受容者資源論との接点」(イム・ジェンス)という章があります。OTTは、オーヴァー・ザ・トップの略で、要はネットフリックスやアマゾン・プライム、ディズニー+、もちろんアップル・テレビ+などインターネットを通じて、テレビ局などの「頭越し」に、世界中にコンテンツをダイレクトに届ける仕組みを言います。

 そして「受容者資源論」は、おおざっぱに言えば、視聴の履歴を残す視聴者=契約者たち(のデータ)は、プラットフォームにとっては単なる集金源なだけではなく、効果的に広告配信しうる対象であり、広告収入をもたらす資源でもあるという話です。

 これに近しい議論に「プラットフォーム資本主義」があり、昨今続々と本も出ています(ニック・スルネック『プラットフォーム資本主義』人文書院、2022年、水嶋一憲ほか編『プラットフォーム資本主義を解読する:スマートフォンからみえてくる現代社会』ナカニシヤ出版、2023年)。そこで言われている「プラットフォーム」とは、具体的にはグーグル(アルファベット)、アップル、メタ(旧フェイスブック)、アマゾン、マイクロソフト、アリババ、テンセントなどであり、その各種ソーシャルメディアによって利用者のデータが集積され、さらにはUGC(ユーザー・ジェネレイトッド・コンテンツ)によって、プラットフォーム側がその手を煩わせることなくそこにコンテンツが集積されていくようなシステムを言います。そうしたプラットフォームが巨大化し、グローバルな経済圏、ひいては生活圏をなしている現状を、「プラットフォーム資本主義」と呼ぶわけです。

 たしかに、これまでの資本主義の仕組みとは違います。そして、この新たな資本主義をリードするのは、グローバル・インフラと化したインターネットを生んだ「アメリカ」です(アリババやテンセントの今後はわかりませんが)。

 アップルの生み出したコンテンツ「パチンコ」は、ナショナルないしトランスナショナルな物語でありつつ、グローバルなビジネスでもあります。「パチンコ」が、あからさまには「アメリカ、アメリカしていない」コンテンツであることは、逆に潜在的アメリカが世界に遍在している現状を逆説的に示しているようにも思えます。

 と、小難しいこと言いましたが、要はショーケンのカッコよさは、音楽的にブラックっぽい匂い(R&B)がしたことに起因すると思います。憂歌団の「パチンコ」が、また別の文脈でブラックっぽい(ブルース)のと同様に。

 まぁともかく、「パチンコ」のSeason.2が楽しみです。

 

「寺山(修司)さんとは価値観が合わない」爆

 

今日は授業、院ゼミ、それ以外にも学部・大学院教務多々。

 

堀野正人ほか編『都市と文化のメディア論』ナカニシヤ出版、2024

嶽本野ばら米朝快談』新潮社、2013