60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

有川浩さんへのインタヴュー全文

本日売りの『サンケイEX』(産経新聞タブロイド紙)にて私のゼミの3年生たちが
「僕たちの阪急今津線」という記事を見開きにて企画・構成しております。
その中で、現在撮影中の映画『阪急電車』の原作著者である有川浩さんに
メールにてインタヴューにお答えいただいて内容も掲載されております。
紙幅の都合で全文掲載はかないませんでしたので、こちらにてアップさせていただきます。
ゼミ一同を代表して、有川浩様・幻冬舎様のご好意に深く感謝申し上げます。
またあわせて映画『阪急電車』プロデューサーの重松圭一さんへのインタヴューも
紙面に反映できなかった部分を増補して掲載させていただきます。
重松圭一様・関西テレビ放送株式会社様にあわせて感謝申し上げます。
(なお、紙面にこのブログのアドレスも掲載されております)。


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有川浩さんへのインタヴュー】(冒頭に「・」が付された質問にご回答いただきました)


・はじめに、「有川浩」という名前の由来を教えてください。
「有川」は書店に本が並ぶとき「あ」から始まる名前だったら棚の最初のほうに来るから。
「浩」は本名から一字抜き出し(親が喜ぶかなと)。


・ 小説を書くときに大切にしていることは何ですか?
登場人物を作者の都合で動かさない。


・『阪急電車』が映像化されることについてどう思いますか?キャスティングなども含めてお聞かせください。
原作者は映像作品に出資をしません。出資をしない時点で原作者が映像作品に口を出す権利は基本的にはありません。私も「映像化に合わせてアレンジはご自由に」と申し上げましたが、関係各位が非常に原作側を気遣ってくださり、アレンジを加えつつも最も善い形で映像化するようにとご尽力いただきました。『図書館戦争』、『フリーター、家を買う。』に引き続き、恵まれた映像化の話ばかりいただいていると思います。
キャスティングについても関係各位が「映画館にお客さんを呼べる人で、なおかつ『阪急電車』にイメージの合う熱意のある方を」と長い間熱心に頑張ってくれていました。最善のキャスティングになったと思っています。


阪急今津線で、有川さんのおすすめポイント、または好きな駅を教えてください。
私が特に好きなのは小林駅です。ですが、おすすめポイントや好きな場所は阪急ユーザーの数だけ、読者さんの数だけ無数に存在すると思います。読者さんのおすすめがあったらぜひ私にも教えてください。


・『阪急電車』の中では様々な出会いや出来事、そして愛が描かれていますが、それは体験談ですか?それとも何かからヒントを得たのでしょうか?また、有川さんが電車内で体験した出来事で印象に残っていることがあれば教えてください。
愛を体験でしか書けないのなら私はどれほど恋多き女なのかという話になってしまいます(笑)。作家は嘘を吐くのが仕事です。一つのきっかけや思いつきを膨らませていくらでも嘘を吐きます。『阪急電車』の場合、実際に自分が生活している路線なので「見聞きしたことのある光景」はたくさん入っていますが、「自分の体験」と呼べるものは入っていません。作家だからといって特殊な体験が多いわけではありません。ただ、日常のささやかな光景からいろんな物語を想像する能力があるだけです。物語を紡ぐためにいろんなものを見ておこうとする意欲は強くなりますが、それは「いつか使えるかもしれないから」と押入れにがらくたを溜め込んでおく感覚と変わりません。わざわざ見に行って使わずじまいのこともたくさんあります。しかし「使わなかった光景」も自分のデータベースに広がりを生むという意味で「使った光景」と等しく大切です。
電車で印象的だった体験は西宮北口で自分の読者さんに「有川浩さんですか?」と声をかけられたことです。


・登場人物にモデルとなった人はいるのでしょうか?
この回答も一つ前のご質問に準じます。『阪急電車』には具体的なモデルが存在する登場人物は一人もいません。


・作品内には大学生が登場しますが、現在の今津線の大学生にどういった印象をお持ちですか?
今津線の、と限定されてしまうと回答が難しくなってしまいますが、学生さんというものはどんなときでもどんな場所でも若さでキラキラしているなぁと思います(時として無鉄砲であったり向こう見ずであったりすることも含めて)。


・『阪急電車』の舞台は関西、エピソードも関西らしさを感じる部分があるのですが、有川さんが考える関西の売り、良さは何ですか?
人懐こさと逞しさ。長所と短所は裏表なので、これが短所となることも当然あり得ますが、長所と感じ取れることが多いような世の中であってほしいと思います。


・『阪急電車』を通して読者に伝えたかったことがあれば教えてください。
本というものは世に出た時点で手に取った読者さんのものです。読んで何を感じるかは読者さんの感性に委ねたいと思います。


・今後、小説を書くこと以外で、何か挑戦したいことがあれば教えてください。
挑戦のための余力があれば、それはすべて小説に叩き込みたいと思います。


・最後に、有川さんにとって『阪急電車』とはどういう存在か。もし一言で表せるようであれば、教えてください。 
私にとって書いた本はすべて等しく「その本を書かねばその後の本に繋がらなかった」本です。『阪急電車』もそうした大事な本の一冊です。


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重松圭一さんへのインタヴュー】
(取材内容を、冒頭「―」が付された質問に対するお答えという形式にまとめさせていただきました)


―どのような経緯で阪急電車を映画化しようと思ったのですか。
「様々な業界が元気で発展するには、二番手が頑張り、強くないといけないという持論があるんです。日本で言えば大阪。でも今、その大阪の街に活気がない。関西テレビの社員である以上、大阪を元気にしたいというのが、自身の大きなテーマなんです。
ドラマのプロデューサーをしている私は、関西を拠点にした、関西を元気にできる映画をいつか作りたいなと思っていました。
そんなとき原作の『阪急電車』に出会い、これを映画化したいと強く考えるようになったんです。関西の人達が足として使っている阪急電車が舞台で、大阪弁の人達がたくさん出て来て、ストーリーも『明日もうちょっと頑張ってみようかな』と思える前向きな話で、私が求めていた内容だと思いました。その後、原作者の有川浩さんにお会いする機会があり、そこで『映画化させてください』と。」


―なぜ関西テレビの社員初の監督として、三宅監督を選ばれたのでしょうか。
「ドラマや映画では、人それぞれ感動するポイントがあると思うんですが、私と三宅はここが合うんです。肝だと思う箇所が一致していることは、より気持ちよく作品を作れるということもあり、大事だと思っています。
泣かせてくれるポイントが合っている、これが一番の理由ですね。
それに実は、三宅とは同期なんです。三宅がドラマのチーフ監督になり、その後、関西テレビがメインで映画を作れるようになったら、その監督になってもらいたいと昔から夢に思っていたのですが、それが今回実現したんです。」


―出演者はどのように決めているのですか。
「ドラマでも一緒なんですが、キャスティングをイメージしながら原作を読むと言うことが癖になっているんですよ。それを映像にするにしてもしないにしても。読んでいる時に私の頭の中で必ず有名人の誰かが演じているんです。
今回、きれいで強気で根は優しい翔子は、私の中で完璧に中谷さんでした。戸田さんは何度か一緒に仕事をしていたというのもありますし、関西弁が大事だということもあります。映画のなかの関西弁がおかしいと思ってほしくなくて。他の出演者の方もきっと完璧な関西弁で演じられると思うのですが、ネイティブの人がいてほしいなという思いがありました。」


―原作で一番好きなところはどこですか。
「翔子が時恵に初めて話しかけられて、崩れてしまうところです。強気な女の人の強くないところが露呈してしまうところが好き。
でも、他の登場人物もみんな好きです。映画は一つの価値観を押し付けることが多いと思うのですが、阪急電車はどの人物にも面白みがあるから、見ている方それぞれが様々な場所に感情移入できる映画になると思います。」


―あなたにとって“阪急電車”とは。
「こんなことが出来るんだよっていう実現。
テレビ局でドラマを作っていて、いつか映画をプロデュースしたいと思っていました。それが叶った作品です。
しかも、私、電車オタクなんです。小学生の頃、電車の時刻表が好きで、それを見て頭の中でいつも日本一周していました。
そう考えるとダブルで最高の作品ですね。
見に来てくれた人は、すごく前向きな気持ちで映画館を出られるはず。そういう意味では、映画を見て『ちょっと頑張ってみよう』と思ってもらえたらいいですね。
今、電車に乗ると、みんな携帯を見てる。でも、電車に乗ってる全ての人にそれぞれの人生があって、少し携帯を閉じてくれれば、人と触れ合い、この世も捨てたもんじゃないと思えるかもしれない。そういうことを伝えたいです。」


―電車オタクということですが、一番好きな電車は何ですか。
「もちろん阪急電車です。」



関西学院大学社会学社会学科難波ゼミ一同】