60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

末永くお幸せに



昨日、ゼミ卒業生の結婚式のため、高松へ。乾杯のご発声というお役目付き。


 新郎・新婦、ならびにご両家の皆様、本日は誠におめでとうございます。
 ご紹介にありましたように新郎の大学時代のゼミの教員ということで、ご指名ですので少しお話させていただきます。
 本日はお招きいただき、大変ありがとうございます。難波という名前でお気づきの方もおられるかもしれませんが、私のルーツは岡山で、祖父が玉野の三井造船で働いていた関係で、父は対岸の宇野で生まれ育ちました。父は地元の県立高校から、香川大学経済学部へと進み、就職で大阪に出てきて、私は大阪で生まれ育ちましたが、本籍は依然岡山県玉野市宇野となっております(新婦が父と同窓だと、今日ここにきて初めて知りました)。
 というわけで、子どもの頃は夏休みのたびに、鷲羽という急行に乗って宇野に来ておりましたし、その間一度くらいは高松に出たような思い出があります。なので今日は、マリンライナーは便利は便利なのですが、懐かしさのあまり、わざわざ宇野港から高松港へとフェリーで参りました。いや、余計な話をして申し訳ありません。
 新郎、T君の人となりを少しご紹介すべきと考えましたので、ちょっと昔のファイルなどをあさってみました。元ゼミ生の披露宴に呼ばれるときには、よくその人の卒業論文をもっていって、本人は非常に恥ずかしがりますが、それをネタにして祝辞を述べることが多いのですが、T君の場合、卒論よりもゼミ選考の際の提出書類の方が面白いと思ったので、そちらを今日は持ってまいりました。
 私はゼミ選考の際、応募者に対しては、一律に面接をするようなことはしないから、面接・面談する人は各自申し出てほしい、というやり方をします。面接をうけにきたからといって全員が全員、選考で残るわけではないし、書類だけで応募してきた人も、その内容がよければ残ることもあるかもしれない、といった方式です。多くの学生は、面接をうけにくるのですが、T君は最後まで現れませんでした。
 そのかわり、ゼミ選択希望届に、「取扱説明書」と題したレポートを添付して提出してきました。何の取扱説明書かというと、T君自身の取扱説明書です。本人の生い立ちから、普段考えていることまでをツラツラ綴っており、最後の「注意事項」のところでは、


「もうすでに気づいていると思うが、私はネチネチと考えるのが好きな人間であり、放っておくと自分ワールドに入ってしまう可能性もある。その点に関しては、バレーボールをやっていたこともあり、基本的にチームプレーの精神や、協調性は人並み以上に有しているのでなんとかなるはず。ただし、いかんせん私は変態的である。加えて、超高齢化、過疎化している瀬戸内海の小さな島で育った私は、「世間知らず」が甚だしい。ゼミの運営を妨害するほどではないと思うが、興味・関心の部分で少しずれている部分も出てくる可能性がある」


と書いております。表紙は雷神風神の「雷神」、カミナリ様でした。そして、これだけではアピール不足かもと不安だったのか、後日T君は「風説」と題した別のレポートを提出しに、私の研究室に来ております。今度は風神の表紙です。ヨット部に所属していたことをめぐってのエッセイなので、「風」というのはそこからきています。しかし、この時も私はT君とは会っていません。ドアをノックして手渡しすればいいものを、研究室のドアの隙間からレポートを差し入れてくるのです。私は研究室にいて、なんだか人の気配がするなあと思っていると、ドアの隙間から風神が出てきます。正直言って、ちょっと怖かったです。
 で、T君をゼミに受け入れるか否か、けっこう悩みました。自ら変態的と名乗り、対面での接触を避けてくる学生、というのはゼミ生としてつきあうにはちょっと……とも思いました。ただ、まぁ、読書量もあるようだし、文章もちゃんと書けているし、物事をあれこれ冷静に考えることが出来る学生という印象は得ましたので、こういう人もいてもいいかなぁということで、T君をゼミに受け容れた記憶がございます。
 結果はと申しますと、思いのほか非常に仲のよい代となり(今日もたくさん来ておりますが)、T君もそれなりに機能してたし、本人も居場所をゼミに見つけられたようなので、よかっただろうなぁと思います。
 でも私以上に、今回新婦○○さんは、大きな決断をされました。私の場合は2年間のつきあいということですが、夫婦となるともっともっと重たい関係性を取り結ぶ、ということになってきます。しかし、この新婦の判断、選択は正しかったと私は思います。T君は取り扱いにやや注意が必要なところもありますが、基本的には誠実でやさしい人なんだと思いますので、幸せな家庭を築いていってくるものと、私は願い、信じております。
 月並みな表現ですが、末永くお幸せに、という言葉を私からのお祝いの言葉とさせていただきます。
 それでは乾杯に移りたいと存じます。皆様、グラスをお持ちになって、ご起立ください。ご準備、よろしいでしょうか。
 それではTくん・○○さんの幸せな船出と、ご両家ならびにご列席の皆様のますますのご発展、ご健勝を祈念して乾杯いたしましょう。ご唱和ください。「乾杯!」



福男・福娘状態の新郎新婦。
島の公務員夫妻として、ご活躍を。