60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

「広告」に明日はあるのか、ないのか、どうなのか。(18) パロディCMからCMパロディ、さらにはCMパロディCMやCMパロディ・コンテンツへ

 パロディCMの例をあげていけば、まぁいくらでもさかのぼれると思うのですが、たとえば

日清 カップヌードル CM 「リア獣との闘い」篇 - YouTube

 これはもちろん映画「ジョーズ」(1975年)が下敷きになっています。
 テレビがまだニューメディアだった頃、軽喜劇などの演芸や、先行する映画やラジオ等々の表現作法・様式を借りることでしか、テレビCMはテイクオフできませんでした。
 しかし、テレビが確固たる地位を築くと、CMは引用する側からされる側へと転じていきます。当初は他の表現領域からCMへのひそかな借用であったわけですが、やがてその借用の仕方のエンタメ化――エンタテインメントとしてのパロディ――がCMにおいて図られるようになったりもします。
 その潮目の証言として、以下、泉麻人『昭和50年代東京日記:city boysの時代』(平凡社、2023年)の「資生堂とパルコのCMが待ちかまえていた 昭和52年(1977年)」の章から。
 まず冒頭に「僕が広研(広告学研究会)なんてサークルに入ったのは、子供の頃からCMが大好きだったというのが率直な理由だが、それに加えてこの時代はオンタイムの広告が実におもしろかったのだ。雑誌や映画、TV番組と並ぶ1つの娯楽メディアになりつつあった」とあります。そして

 

 パルコ出版から出ていた月刊誌「ビックリハウス」は僕が高校生の頃に創刊(昭和49年)されて、執筆陣などは当初「宝島」や「だぶだぼ」あるいは「話の特集」なんかとカブるようなところもあったけれど、この雑誌の目玉は〈ビックラゲーション〉という読者の“おもしろ投稿”を紹介するコーナーで、やがてこういう投稿名人を対象にした「エンピツ賞」という文学賞も生まれた。そんな、「ビックリハウス」的な笑いのキーワードとなっていたのが、パロディーという手法。
 誰もが知っている名画や小説、建造物‥‥の一部をイジったり、全く違ったシチュ エーションに取りこんだりしてそのギャップを笑う(とまぁこういう説明は難しいが)――というもので、この年(52年)の10月には「JPC(日本パロディ広告展)というのが渋谷パルコ(PART2)で開催されて、何回か続くヒット・イベントになった。

 

 こうしたパロディ広告は、単に「ハガキ職人」たちの手すさびにとどまらず、実際に「ビックリハウス」のテレビCMでも展開されていたのだとか(この頃のパルコに関しては、https://www.parco.co.jp/assets/pdf/advantage/file220511_parcooverview.pdf
https://www.yhmf.jp/as/.assets/ads_37.pdfなど参照)。

 

 この「JPC展」よりも1年近く前、おそらく昭和51年の暮れか52年のはじめの頃だったと思うが、テレビの夜更けの時間帯に「ビックリハウス」の奇妙なCMをやっていた。
 当時、アラン・ドロンレナウンの紳士服「ダーバン」のCMモデルを演じていて、洗練されたスーツ姿で語る「ダーバン、セ、エレガンス~」ウンヌンというフレーズが定着していた。「ビックリハウス」のCMはそれをパロったもので、ダーバンならぬターバンを頭に巻いた中近東風の男の画像とともに「ターバン、シャレデゴンス、ドンナモンダイ」(だったか?)、アラン・ドロンのフレーズに似た語感のふざけた文句が流れる――なんて感じのものだった。

 

 その後、慶応広研の代表となった朝井泉(泉麻人)青年のもとに「週刊TVガイド」からパロディCM企画の依頼があり、オーソン・ウェルズ出演のニッカウヰスキーのCMのパロディであるTVガイドのCM――話がややこしい――が実際に制作され、評判を呼んだとのこと。そして、それが「週刊TVガイド」の東京ニュース通信社に朝井青年が入社するきっかけとなったのだとか。

 こうした事例で思い出されるのは、Sony BraviaのBouncy Balls(2005年)です。

www.youtube.com

  ブラヴィアというテレビの画面の美しさを訴求するシリーズの一つですが、このCMのパロディが多く作られ、たとえば

Bouncy Ball Ad Spoof - YouTube

 さらには、CMパロディCMも登場しました。

Tango v Sony Bravia - Bouncy Balls - YouTube

Doritos Lots Of Cheese - YouTube

 そして動画共有のプラットフォームが普及したことによって、かなり昔のCMのパロディも成立するようになってきました。たとえば、これは最近の日清カップヌードルのものですが、

カップヌードルCM「ザクザクコリコリ 篇」30秒 / なかやまきんに君 - YouTube

 この元ネタは、1991年のピップフジモトのCMです。

【CM】 ピップ ダダン ボヨヨ~ン! - YouTube

 昭和歌謡やシティポップのリバイバルにしても、音源や映像の巨大なアーカイブ(収蔵庫)がネット上に(しかもグローバルに)形成されたことが最大の要因でしょう。
 意図的にレトロ調を狙ったCMも多くあり、中にはあえてキッチュでレトロな昭和CMのパロディ風CMといった手の込んだものも登場しました。

あの懐かしCMを野村周平さん主演で徹底パロディ! 資生堂unoとホテル三日月がコラボレーション ウエブ動画CM「スキンセラムモイスチャー/ホテル三日月コラボ」篇|株式会社資生堂のプレスリリース

 

 最後に、以上のようなことを書こうと思ったきっかけは、アイドルの個人PV(プロモーションビデオ)でした。

櫻坂46 小島凪紗『アドリブ高校3年S組 凪紗先生』 - YouTube

 この元ネタは、2002~3年頃に放送されたファンタのシリーズCM「ファンタ学園」です。個性的な先生が、次々と登場します。たとえば

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 2008年にも続編が制作されたようですが、今の10代の記憶に残っているとは思えません。アイドルファンの高齢化(もしくは汎年齢化)を反映しているのかもですが、「アドリブ高校3年S組」といったPVが作られる背景には、動画共有プラットフォームの普及によるCMアーカイブ化現象があることは確かでしょう。

 以前、放送は「送りっ放し」とよく言われましたが、過去の放送コンテンツが芋づる式に「掘られる(digged)」ものともなった現在、時空を超えたCM間のコラボもありえる事態となりました。NHKねほりんぱほりん」のエンディングの元ネタが、ヤンマー提供「ヤン坊マー坊天気予報」(1959~2014年)のオープニングだったりする今日この頃です。
 今回私はこの文章を書くためにもろもろ検索してて、かつて「ファンタ坂学園と大合唱計画」という事例ーーファンタと楽曲の広告がテレビ番組化されるという、広告とコンテンツのアマルガムーーがあったことを新たに知りました。で、それをweb動画として数年遅れで確認しました。リゾーム(根茎)なんて言葉もありますが、web(蜘蛛の巣)とはよく言ったものです。それから、ネット。まさに引用(intertextuality)の網の目です。