60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

「広告」に明日はあるのか、ないのか、どうなのか。(17)「推し」という現象と、広告およびマーケティングとの関係について。

 ここ数年来続く「推し(活)」ブーム。解説する必要もないと思いますが、メディアの「「推し」推し」も依然沈静化する様子はありません。

よるドラ だから私は推しました|番組|NHKアーカイブス

まだまだ拡大中!推し活パワーが社会を変える - NHK クローズアップ現代 全記録

 今回はこの現象が、広告・マーケティングにどのような影響を及ぼすか、もしくは広告・マーケティングの側が、いかに利用を試みているかをみていく中で、引き続き「広告」概念の拡張について考えたいと思います。

 

①自身やその製品・ブランドを推してくれるファンダムの構築・維持

 広告の目的が商品や企業・団体に対する好意の醸成にある以上、すべてがファン獲得を意図したものであることは当たり前と言えば、当たり前の話です。しかし、かつてはリレーションシップ・マーケティングだ、近年だとファンダム・マーケティングだと喧しいのは、それなりの社会的背景あってのことでしょう。インターネット上のさまざまなプラットフォームやSNSの普及によって常時消費者・利用者とつながる状況の拡大、何らかのメンバーシップに入ってもらい、サブスクリプションで稼ぐ方法の一般化などなど。

 ファンダム・マーケティングという時、まず参照されるのが、ロックバンド(ジャムバンドGrateful Deadのファン集団(Deadheads)です。下記の本(原著2010年出版、日本語訳2011年出版)では、インターネット普及以前からコンサート情報などをファンの間で迅速に伝達するシステムの自生的発達、コンサート会場などでファンが録った音源をファン同士で交換・共有できる仕組み、関連グッズなどをファンが自由に製造・販売できる慣習(その収益をバンドのツアーについて回る資金にする)などは、データベース・マーケティングである、フリーミアムの原型である等々と論じられています。

 グレイトフルデッドは、1960年代のカウンターカルチャーの中から生まれたバンドなので、本来的には反資本主義、反消費社会の立場なのですが、そのやり方がマーケティングに生かせる、とくに既存の大企業に対し戦いを挑む起業家にとって参考になる、というわけです。たとえばビール市場でいえば、イギリスのブリュードッグや日本のヤッホーブルーイングなどが、とがった広告・広報戦略や、ファン・ミーティングのような組織づくりによってシェアをとっていった事例など。

 バンドつながりでいうと、マキシマムザホルモンが、そのファン集団「腹ペコ」に対して、「腹ペコえこひいき店プロジェクト」を展開し、2022 ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS(旧ACC CM FESTIVAL)にて金賞を獲得しています。マキシマムザホルモンのファンに、店主もファンである飲食店での消費を促す施策で、コロナ禍をファン同士の結束で乗り切ろうという意図が込められています。たしかに、ラーメン屋や焼き肉店の店長にマキシマムザホルモンのファン、多そうです。

腹ペコえこひいき.com - マキシマム ザ ホルモン

 ファンづくりという点では、ふるさと納税を増やしたい地方自治体も同様かも。

藤井風さんの出身地「岡山県里庄町」ふるさと納税1億円突破 MV登場のスーパーを訪問するファンも | KSBニュース | KSB瀬戸内海放送

 

②「推し(活)」を自らのビジネスにつなげる。

 昔からタレント広告などは、そのタレントのファンを、広告に起用した商品や企業のファンにしてしまいたい、という手法でした。スキンケアや化粧品の広告にK-POP男性アイドルが登場するのも、「推し活マーケティング(一押しの人物をさまざまな形で応援したいと願うファン心理に訴求する商品・サービスの宣伝方法)」(小林美香ジェンダー目線の広告観察』現代書館、2023)。

 最近の例だと、センイル広告の広告枠の売買などもそうでしょう。推しの誕生日などを祝い、推しを推すための広告「センイル広告」については、すでに結構知られていると思いますが、韓流スターなどの誕生日(生誕祭!)に、ファンたちがクラウドファンディング等で資金を集め、推しのプロモーション動画をデジタルサイネージ(街頭ビジョン)で流したり、ポスターを掲出したり。それら動画やポスターの制作もファンたちによってなされたりもします。それが日本でも広まり、たとえばアイドルやキャラクターの応援動画などを、ネット上のみならず、街頭で見かけることも増えました。この場合、広告主はファンたちであり、その訴求ターゲットは推し本人となるのでしょうが、ファン以外への「布教」活動であったりもします。

 あとは例年池袋パルコが「推しのいる夏」キャンペーンを展開し、推し活に必要なグッズ、ファッションの販促に力を入れています。

池袋パルコは推し活を応援します。 | ライブ参戦ファッション | 池袋PARCO

 

③何らかのファンダムにささる広告表現など、「推し」現象のマーケティング・コミュニケーションへの利活用

 典型例は、眞露。韓国焼酎の販促にもつながっているし、なによりネット上での大反響を呼びました。今年も続編がつくられているようです。

佐久間由衣と小関裕太が、”韓国ドラマあるある”を熱演!チャミスル新WEB CM『恋スル!チャミスル』 - YouTube

 それから東京ガスの「母の推し活」編。

東京ガスCM「母の推し活」」篇(90秒) - YouTube

 やや強引な結びつけ方ですが、家族と家庭料理の大切さと訴えてきた企業CMの蓄積があればこそ(なのですが、東京ガス、電力事業も始めているので、そのうちIHでもこのシリーズやるんでしょうか。火力だからこそしっくりくるシリーズなのですが)。

 

 以上の例で言えば、グレイトフルデッドマキシマムザホルモンまでマーケティング(・コミュニケーション)の文脈で語られること、一般人が広告の送り手となるセンイル広告などが、「広告」の地殻変動の端的な現れだと言えそうです。