60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

「広告」に明日はあるのか、ないのか、どうなのか。(8)広告業界を描きつつ、広告しつつのMAD MEN。

 広告業界を描いたコンテンツとして、「サプリ」「左ききのエレン」などもろもろありますが、世界的なヒット作といえばドラマ「MAD MEN」。アメリカAMC製作で2007年から2015年にかけて、7シーズンにわたり放送され、エミー賞などを総なめにしました。

 舞台は1960年代のニューヨーク。敏腕広告クリエイターのドン・ドレイパーを中心に、活気にあふれた当時の広告業界の様子がつぶさに描いていきます。ちなみにタイトルのマッドメンは、狂ったように働き、遊んだ当時のアドマン(非常に男性優位の世界でした)たちの姿と、大手広告会社が軒を連ね、広告産業の代名詞にもなっているMadison Avenueからきています。

 

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 時代考証のたいへんしっかりした作品で、当時の実際の広告も使用されています。そして、広告ビジネスの世界を軸にしつつ、消費と快楽がベースにあるドラマなので、さまざまな商品が劇中に登場し、ブランド名が飛び交っています。つまりマッドメンは、広告業界を描きつつ、タイアップ(英語的にはtie-in)関係にある商品・ブランドの広告もしているわけです。

 こうした広告手法を、プロダクト・プレイスメントと言います。プロダクト(製品)をドラマや映画のシーンの中に配置(プレイスメント)する、ないしはセリフの中で商品名・ブランド名を発してもらう。

 この手法は、映画「E.T.」きっかけで一躍有名になりました。Wikipediaには、次のようにあります

 

In 1982, the Mars candy bar company rejected a product placement offer for the inclusion of its key product M&M's in the Steven Spielberg film, E.T. the Extra-Terrestrial. Hershey accepted an offer for use of Reese's Pieces in the movie, and with the film's blockbuster success its product sales dramatically increased, perhaps as much as 300%.

(1982年、マーズ・キャンディバー・カンパニーは、その主力商品M&M‘sをスティーブン・スピルバーグの映画「E.T.」にプロダクト・プレイスメントするというオファーを断った。ハーシーは、Reese's Piecesをその映画に使うことを受け容れ、そして「E.T.」の大ヒットによって、Reese's Piecesの売り上げは約300%と劇的に増加した)

 

 少年が異星人をおびき寄せるためにキャンディ(Reese's Pieces)を撒く、有名なシーンです。

 もちろんすべてのプロダクト・プレイスメントがうまくいくわけではないですが、日本だと「魔女の宅急便」などが成功例としてよく引き合いに出されます。また韓国のドラマでは「間接広告」と呼ばれ、多用されているようです。

 さて、マッドメンに関してですが、「マッドメンにおけるリカーのプロダクト・プレイスメントの事例分析」というホームページがあったので、紹介しておきます(https://blog.hollywoodbranded.com/a-mad-men-case-study-on-liquor-product-placement)。もちろんマッドメン中のプロダクト・プレイスメントにはリカー以外もいろいろあったのですが、このページが事例紹介動画(Canadian Club & Mad Men Video Recap)などもあっていちばん楽しめました。

 ウィスキー(カナディアン・クラブ)のメーカーと番組制作スタッフとを仲介したエージェンシーの報告なので、少し割り引いて読む必要があるかもですが、「シーズン4の期間だけでも、カナディアン・クラブはドン・ドレイパーと一緒にdozen times以上スクリーンに登場し、ドレイパーのキャラクターのコアな要素となって」おり、「マッドメン登場以降、17年連続して売上が落ちていたカナディアン・クラブは、年4.3%の売り上げ上昇へと転じた」とのこと。とくに、年長者向けの商品とみなされがちだったウィスキーが、この人気のTVショウに登場することで、カナディアン・クラブが新たな層、すなわち若者や女性への到達できたのだとか。

 またシーズン6では、ドラマ中でプレゼンテーションされていた広告案が、実際に出稿されるという展開も生じました。

 How Heinz Brought A Fictional “Mad Men” Campaign To Life(いかにしてハインツは、フィクショナルな「マッドメン」キャンペーンを現実のものとしたか。https://www.fastcompany.com/3069043/how-heinz-brought-a-fictional-mad-men-campaign-to-life)という2017年3月17日の記事によれば、「先週、ニューヨークポストとバラエティに、マッドメンの劇中にあった3ページの広告が、そのまま掲載された。それは、フライドポテトとハンバーガーとステーキの写真の上に、ただ「Pass the Heinz.(ハインツをとって。)」とあるだけのものであった。この広告はニューヨークの屋外看板やソーシャルメディアにも出現した」。

 そして、これは「reverse product placement strategy(逆プロダクト・プレイスメント戦略)」とも呼ばれているとのこと。現実にある商品が、フィクションに入るのではなく、フィクションの中の広告が、現実の世界において機能し、話題となる。それもこれも、マッドメンというドラマのもつポピュラリティゆえである、とのこと。

 もちろん、こうしたマッドメンへのプロダクト・プレイスメントは、当時からある商品にしか使えません。それゆえ、マッドメンに登場したこと自体が、それだけ息の長い、オーセンティックなブランドだということのアピールとなるわけです。

 

 こうした広告とコンテンツの入り組んだ関係については、継続して考えていきたいと思います。

 しかし、ともかくマッドメンはお薦めです。1960年代(の音楽)が好きな人には、とくに。私は幼少期のドンがHoboと出会う「The Hobo Code」(シーズン1第8話)がもっとも印象的でした。そしてラストの「Hill Top」(1971年)も……