60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

「広告」に明日はあるのか、ないのか、どうなのか。(14)連続ドラマ風のシリーズCMではなく、広告業界を描いたドラマでもなく。

 前々回、広告業界を描いたCMやドラマの話をしました

https://sidnanba.hatenablog.com/entry/2023/09/08/000000)。

 また、連続ドラマ風のシリーズCMというのもよくあります。ソフトバンク白戸家やBOSSの宇宙人ジョーンズのような。しかし、今回は「ドラマ×CM」。しかも最初からコラボレーションの仕掛けが、しっかりとできているものについてです。

 かなり前の回で、企業のコンセプト・ムーヴィーを他の企業が広告媒体として利用したり、MVとCMのタイアップが進んでいたりという話をしました。

https://sidnanba.hatenablog.com/entry/2023/09/02/004644)。

 その時、CM、WebMovie、MV、映画等々、幅広く映像作品を手掛けるディレクターとして松本壮史監督を引きあいに出しました。松本監督が気になりだしたのは「青葉家のテーブル」だったのですが、その後はまったのはドラマ「お耳に合いましたら。」(2021年、テレビ東京)、映画「サマーフィルムにのって」(2021年公開)の順だったと思います。

 「お耳に合いましたら。」のトレイラーも貼っておきますが、漬物会社のOL高村美園(伊藤万理華)が、ふとしたきっかけから、チェーン店のテイクアウト(チェンメシ)を自宅で食しつつ、チェンメシ愛を饒舌に語るポッドキャスティングをはじめる、という話です。

【公式】木ドラ24『お耳に合いましたら。』60秒トレーラー | テレビ東京 - YouTube

 毎回異なるファストフードのチェーン店が登場するというタイアップのみならず、制作は「テレビ東京、BABEL LABEL」ですが、制作協力「Spotify」とあるように、劇中の美園の配信は、実際にSpotifyポッドキャスティング番組としても流れます。また、美園は氷川きよしポッドキャスト番組「氷川きよしkiiのおかえりごはん」(Spotify)の愛聴者だという設定にもなっていました。

 さすがにドラマなので、全話を松本監督が担当するというわけではなく、「ひとりごとエプロン」の杉山弘樹監督などとの分担でした。となると、全体を統括するプロデューサーが誰なのかが知りたくなってきますが、プロデューサーとして名を連ねるテレビ東京やBABEL LABEL(映像を中心としたクリエイター集団)の人たち以上に、原案・企画とクレジットされている「畑中翔太」の名が気になりました。

 そこで「畑中翔太」で掘り始めると、これがたいそうおもしろい。松本壮史監督は本質的には「映画の人」なのに対し、畑中翔太氏はどちらかというと「企画の人」。目的達成のために「コンテンツ×メディア×クライアント」をどう組み合わせ、いかにかけ合わせるかを融通無碍に考え、企画し、実現させている感じがします(その結果、関わった企業・団体等々が皆得をする仕掛けづくり)。

 2022年10月号『日経エンタテインメント』「新潮流の深夜ドラマに各種業界が熱視線 畑中翔太×寺原洋平」では、テレビ東京寺原氏と畑中氏へのインタビュー記事があり

 

「彼らの手掛ける作品は、視聴者に受け入れられているだけでなく、スポンサー企業からの支持が高い。実は『サ道』や『絶メシロード』放送以降は外部からのコラボレーションの提案が来るようになり、3作は企業とタッグを組んで作っている。ただ、旧来のタイアップドラマとは中身が違う。寺原――『ハチナイ』では、スマートフォンアプリを展開するアカツキさんと、『お耳』ではオーディオストリーミングサービスのSpotifyさんと組んでいます。「量産型リコ』も、バンダイスピリッツさんからお声を掛けてもらったのがきっかけです」

 

 ドラマ以外にも畑中氏のクリエイションは多岐にわたりますが、まずクリエイティブカンパニー「dea inc.」(https://dea.co.jp/)のworksのコーナーをみていただければいちばん手っ取り早いです。worksのジャンルが「AD」「Content」「Product/Shop」「Book」となっているのが、まずおもしろい。そして、扱う領域がただ広いだけではなく、4つのジャンルに複雑にまたがっているのもまたおもしろい。

 たとえば2018年のY!mobile「恋のはじまりは放課後のチャイムから」は、SNSYouTubeで卒業式までの1カ月間、ネットドラマが配信され続けるという仕組みで、「AD」であり「Content」である作品です。ホームページの説明には「新しいソーシャルドラマ」「リアルライフシンクロ型ドラマ」とあります。

 その他、地方自治体がクライアントである地域振興の仕事から始まった「絶メシ(絶滅の危機にある個人経営の町の飲食店)」を救えキャンペーンが、前出の記事にあるようにドラマ「絶メシロード」へと展開されたり、「お取り寄せ絶メシ」として商品化されたり。またドラマ「量産型リコ:プラモ女子の人生組み立て記」は、「静岡市プラモデル化計画」とも連動しているように思えます(「量産型リコ」には当然バンダイタミヤ製品が登場しますが、静岡市にはバンダイホビーセンターやタミヤ本社があります)。なおこの「静岡市プラモデル化計画」では、街頭に郵便ポストをパーツに見立てたプラモデル風オブジェが登場し話題を呼ぶなど、先ほどの分類では「AD」であり「Product/Shop」であり。

 しかし、個人的にツボなのは、MVであり、広告でありというworks群。カゴメは畑中氏の長年のクライアントらしく、アイドルやバンドと絶妙のコラボを展開しています。  

 たとえばBEYOOOOONDSによるタイアップソング「ビタミンME」のMV。 BEYOOOOONDSが「カゴメONEDAY」の妖精「VITAMIIIIINS(ビタミーーーーーンズ)」に変身!?という内容です。

BEYOOOOONDS『ビタミンME』 - YouTube

 また四星球(SU-XING-CHU)の「キミの背中」は、栄養成分表示など商品パッケージの裏側をただ読み上げ、歌い上げるだけの楽曲。

四星球「キミの背中」Music Video - YouTube

 

 最後に、備忘までにその他のドラマタイアップの事例と、

7月スタートのカンテレ・フジテレビ系月10ドラマ「魔法のリノベ」番組枠内で“夏の断熱リフォーム”を訴求するインフォマーシャルを放映開始|株式会社LIXILのプレスリリース

個人的にもっとも好きなYouTube動画のタイアップ(ブルーハムハム×CHILL OUT)例を。

小さなタンバリン奏者【ブルーハムハム】 - YouTube

 ブルーハムハムはもう説明不要でしょう。それをプロデュースしているCHOCOKATE Inc.は、広告も手掛けています。最近、広告専業の制作プロダクション、クリエイティブ・ブティックをあまり見かけないことも、「広告」概念溶解の要因の一つ、もしくはその結果のように思います。