60歳からの自分いじり

恥の多い生涯を送って来ましたが、何か?

「広告」に明日はあるのか、ないのか、どうなのか。(5)広告はいったん置いといて「コンテンツ」について考える。

 まず、「コンテンツ」とは何でしょう。

 これまた非常に多義的に使われる言葉ですが、「コンテンツの創造、保護及び活用の促進に関する法律(平成一六年法律第八一号)」の第一章総則第二条にしたがい、「映画、音楽、演劇、文芸、写真、漫画、アニメーション、コンピュータゲームその他の文字、図形、色彩、音声、動作若しくは映像若しくはこれらを組み合わせたもの又はこれらに係る情報を電子計算機を介して提供するためのプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わせたものをいう。)であって、人間の創造的活動により生み出されるもののうち、教養又は娯楽の範囲に属するもの」としておきましょう。

 広告の二面性は、それ自体が「人間の創造的活動により生み出されるもののうち、(教養又は)娯楽の範囲に属するもの」であると同時に、テレビ番組など何らかの他のコンテンツに付随したものでもある点です。

 かつてのように番組とコマーシャル、記事と広告とが、判然とした区別のもと、截然と存在していた場合は、コンテンツと広告は別物であり、かつ広告はコンテンツに付随するものと考えていれば事足りました(それぞれのメディアの草創期、両者は混然としがちでしたが、マスメディアとして社会的地位を確立して以降は「コンテンツ/広告」が明確化しました)。

 テレビ番組に付随するもの(=トイレタイム)と貶められがちであったために、広告制作者たちは発奮し、コマーシャルそれ自体が楽しめるものであるように努め、お互いの努力(とクラフトマンシップ)をTCC賞(コピーライティング)、ACC賞(コマーシャル)、さらにはCannes Lions International Advertising Festivalなどにて顕彰しあってきました。

 しかし、前回も述べたようにCannes Lionsは2011年にFestival of Creativityへと改称されました。この頃から事態は大きく動き始めます。

 2012年にはCannes LionsにBranded Contents & Entertainment部門が新設されます。この部門はその後2016年にはEntertainment部門となり、2023年現在Entertainment、Entertainment Lions for Music、Entertainment Lions for Gaming、Entertainment Lions for Sportの4カテゴリーから構成されています。もともと広告のフェスティバルだったものが、なぜエンタメ・コンテンツの顕彰にまでウィングを広げることになったのでしょうか。

 その背景には、Branded Contentsとしか呼びようのないものの隆盛がありました。そのきっかけとしてよく指摘されるのが、2001年のBMW Films“Ambush”です。BMWをフィーチャーした7分40秒のショートストーリーを、ものすごいクオリティでつくりあげ、ウェブムーヴィー流行の先駆けとなります(じつにYouTube誕生の4年前に、驚くべき再生回数をたたき出します)。

www.youtube.com

 

 2023年のCannes Lionsでいえば、Entertainmentカテゴリーのゴールドである“NIKE FC Presents the Footballverse”などがわかりやすい例でしょう。

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 これまでナイキがスポンサードしてきた名プレイヤーたちが仮想空間に集うという4分半のショートフィルム。イナズマイレブン豪炎寺修也(?)が「実在しない人物は禁止」と退場させられるのもご愛敬。まぁ、サッカーが好きな人にとってはたまらないコンテンツなのでしょうし、ナイキ・ブランドへの好感度やロイヤリティをアップさせる効果はありそうです。

 しかし、Branded Contentsの枠をはるかに超えた受賞作も散見されます。Entertain-ment Lions for Musicの二つのグランプリのうち、Appleの“The Greatest”は全ての人に音楽の楽しみをという企業メッセージになっていますが、Excellence in Music Videoとして評価されたMICHAEL KIWANUKA “Beautiful Life”は、MVとして極めて秀逸(そしてショッキング)としか言いようのない作品です。すさまじい反響を呼び、曲のプロモーションにはなってるのでしょうが……。

 

 このEntertainment部門では、日本から二作品が銅賞を受けてます。Entertainment Lions for Gamingでは、Playstationの“Play has no limits feat. KENSHI YONEZU”。米津玄師“Pop Song”のMV(児玉裕一監督)とプレイステーションの巧みなコラボレーションは、記憶に新しいところでしょう。

 そしてEntertainment Lions for Musicでは、朝日新聞“Journa-Rhythm”。

www.asahi.com

 ラッパーたちがTHE FIRST TAKE的な空間で、各々何らかの社会問題について歌う(語る)のに加え、そのリリックの背景などについての、オーガナイザーたちとのトークも聴けるという仕組みです。THE FIRST TAKEと同じ広告会社が手がけていますが、この場合はマイク一本ではなく、記者会見風に数十本のマイクがラッパーに向けられているのが印象的です。

 ここからは個人の感想になるのですが、トップバッターで登場したMOMENT JOONさんの『日本移民日記』(岩波書店、2021年)は拝読済だったので、その肉声が聴けてよかったです。でも、なんか全般的に硬かった、という印象が残りました。Marukidoさんも、街録chや吉田豪の部屋での方が、のびのびしていたような。朝日新聞社としては、何とか若者とのタッチポイントを探ろうということだったんでしょうが。

 ラップをフィーチャリングしたBranded Contentsとしては、以下のシリーズの方がはるかにラップへの愛を感じました。

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 まぁ、そうした個人的な感慨はおいといて、こうしたウェブムーヴィー(やもっとエフェメラルで短い動画)が、これまでマス広告が果たしてきたさまざまな役割を、現在担っていることはたしかでしょう。

 エンタメ・コンテンツと「広告」との関係について、次回も引き続き考えていきたいと思います。